11月8日開催の「『森林を活かす自治体戦略』の著者と考える 市町村森林行政のこれから」の登壇者の1人である中村幹広さんが『森林技術』に寄稿した本書の書評をアップしました。全文を掲載しておりますので、下にスクロールしてお読みください。
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急速な高齢化と人口減少で社会が縮小していく日本と同様、全国各地の林業地にも容易には解決できない問題が溢あふれかえっている。しかし、社会の成熟化は半ば強制的に地域の自治能力を高めており、新たな森林管理は未いまだ黎明期にあるとはいえ、今や政策のフロンティアは市町村にある。だからこそ、今後は地域の個性を創り出す森林を起点としたNbS(Nature-basedSolutions:自然に基づく解決策)を示すことが、より一層強く希求されるようになるだろう。そうした意欲的で先駆的な自治体の取組を幅広く紹介するのが本書である。
本書は「総論」と「事例編」の2部構成で、総論ではこれまでの市町村森林政策を巡る展開過程が時系列で整理されているとともに、財政や人員という視点から、市町村森林行政の現状と課題の特徴を明らかにしている。事例編は大きく8項目に区分され、全国的にも優れた取組として約30市町村と4道県の実例が紹介されている。
平成の大合併により広大な森林管理を任された市林政の組織力を活かした厚みのある森林管理の仕組みづくりや、周辺自治体とは合併せず自らの意思で歩むことを決めた小規模市町村の小さくとも個性が輝くローカルな取組、市町村の宿命である専門人材の不足を補完する森林組合との関係性の強化、再生可能エネルギーの地産地消に向けた木質バイオマスの積極活用、施業コントロールによる森林や希少動物の保全、原子力災害が市町村林政に与えた負の現状、そしてこれら市町村を支援する道県の取組等々、今まさに地方自治体における林政は“個性”と“創造性”の百花繚乱である。
調査時よりさらに取組の進化した自治体が増えていることは想像に難くないが、コロナ禍がもたらした行動制約の反射によって人々の関心が森林へと向けられている今だからこそ、一読に値する一冊と言えるだろう。(岐阜県東濃農林事務所林業課長/中村幹広)
『森林技術』No.950(日本森林技術協会、2021年6月号)掲載
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