森と木と人のつながりを考える

【書評】『森をゆく』が日本山岳会と森林インストラクター会の会報で紹介されました!

・日本山岳会 『山』 2010年8月号(No.783)
 著者の米倉さんはもと共同通信の記者である。高校山岳部以来の友人であり、そろそろ定年に近づいたころからお互いに誘い合って山に登り始めた。その記録が盛り込まれた異色の百名山本である彼の著書『六十歳から百名山』が誕生した。一方、彼は50歳後半で森林インストラクターの資格を取得した。私も後を追って3年後に取得、誘い合って国内の主要な森を訪ねた。その記録が本書『森をゆく 「人と森のかかわり」を訪ねて』である。
 私は本書に納められた森の取材の9割近く同行、同じ場面を共有してきた。私なりにメモを取り、写真も撮った。しかし、この本を読んで驚いた。ジャーナリストの確かな目を通して描かれた森は、私の記憶や記録のなかにある平板な森とは異なり、あたかも3D映像のような森の物語に変貌していた。情報の収集力と整理力、再構成力に改めてジャーナリストの力を感じ、脱帽した。また生態系としての森の特徴が、ムダのない文章で余すところなく記述されており、森林インストラクターとしても面目躍如たるところである。
 それぞれの森がそれぞれの長い歴史のなかで自然や人の脅威を受けつつ、それでもたくましく生き残ってきた経緯とその森を守るために重要な役割を演じた人々の活動が生き生きと描かれており、読む者を惹きつける。ジャーナリストの力量と森林インストラクターの知識が融合してできた物語が本書と言えよう。森を題材とした本は林学や生態学に分類される学術的なもの、あるいは森のガイドブック的なものに分かれるが、本書はそのいずれでもなく、それらが程よくミックスされた好書である。
 読むものを飽きさせないのはストーリー性であり、本書を物語と呼びたいのはまさにそのストーリー性の故である。本書を手にして渋谷から電車に乗り、下北沢で降りるはずを明大前まで乗り越し、引き返して再び池の上まで乗り越した、という恥を明かせばその面白さがご想像いただけると思う。(平野裕也)

・森林インストラクター会 『会報』 2010.09(No.99)
 六十歳から日本百名山を二年間で踏破した強靱な足と、人の世の動きを広くみつづけてきたジャーナリストとしての的確な目がなければ、本書は生まれなかったに違いない。著者は、北は北海道東大演習林から南は沖縄やんばるの森まで、日本列島のさまざまな森林を訪ね歩き、その森のもつ豊かな個性を楽しむと同時に、人と森のかかわりに関心を抱き、その有り様を探っている。言葉はやさしく文章は軽快だが、含蓄は極めて深い。森林インストラクターの皆さんが「森をゆく」とき、本書は有効な参考書となるであろう。(林)

日本林業調査会
(J-FIC)の本